空の帝国、音なく拡大中7

3日目

大体、平日と同じくらいには起床してしまう。一日夏休みを取っているため、本日は月曜ながら仕事はお休み。朝のうちにおばあちゃんと畑に行き、丹念に育てられた小玉すいかを二つもらった。90歳が作り出す畑だ、豪勢な畑じゃないんだよ。細くて頼りない茎がちょろちょろ散らかり、その先にハンドボールより少し大きいくらいの控えめなヤツがごろりとついている。そのひとつひとつの上から、肥料の入っていたであろう硬くて安いビニール袋がかけられて、不整然と大小の重石が置いてある。その周りは金網で囲まれている。それはもう、過保護なくらいに小さな西瓜に大きな囲いを。
こういう愛しい具体的な風景を、私はきっといつまでも覚えているだろう。例えば病院の廊下を歩くときのように、全くなんでもないときに溢れるがごとく思い出すのだ。

ドライバー冥利

昼がくるまえにおばあちゃんに手を振って、また来年の約束をして和歌山を出発した。再び母のアクセラで、一昨日来た道を逆に辿る。南紀の海岸を走るのはほんとに気持ちがいい。海から続いて広がる空には、帝国が見えている。
やがて阪和道に入る頃から、父と母は眠りはじめた。ひとりという気はしなかった。私が仮免のころに父と母を乗せて夜中の道を運転したことを思い出して、ちょっと笑ってしまった。あのとき、二人はドアの取っ手や天井の手摺りに両手でしっかり捕まって笑顔を引き攣らせていた。まさか眠りこむなんて余裕はなかったのに、娘の運転で眠れるようになりましたか…。

そして淡路、高松へ

淡路で、海を見ながら遅い昼食を食べた。明石大橋は本当に美しい形をしている、と思う毎度のこと。
光のまち神戸を抜け、単調な淡路を走り、鳴門の渦を越えてアクセラはホームタウン高松へ。はやい、はやい。それでも7時間くらいは運転したのだ。


来週は広島に帰るよ、とふたりに手を振って、旅は終わった。