赤蜻蛉の鳴く風のなか

12代目当主

蜻蛉は鳴いたりはしないのだけど、電子音を立てて空を切る。学生として精神科に実習に行った夏、教えてもらった。あれはお盆に戻ってきた、人の魂の数だけ飛んでいるそうだ。
だから盆を過ぎると、ぱたりと居なくなるのだって。

昼まえ、お墓のそうじに入った。男手になるくらいは働いた。2時間ほどがむしゃらにやって、最後に石のひとつひとつに水をかけてまわった。江戸時代の刻筆が残る石は、形がたっぷりしていて、とてもいい。柔らかで丸い。

12代目当主2

一度シャワーを浴びて昼ご飯を食べ、仏壇間の掃除に入る。祖父の遺影は私の取った写真だった。今となれば、私の人生に強く影響を及ぼしたのは祖父であった、と胸を張って言える。奥から取り出して遺影を拭く。不思議に落ち着く。蜻蛉が窓の外を横切っていく。

12代目当主3

再度シャワーを浴びて、犬の散歩へ。夕方の空が藍の光を残しているその下を、右手にリードを掴んで歩いて行く。左手に盆の組花を抱えて歩いていく。
19歳の秋に亡くした大好きなおばさんの墓に、こっそり花を供えてお参りした。少し話しかけもした。
10年が経ちました。
蜻蛉は夕闇で見えなかった。

家に帰ってご馳走を作り、12代目の本日のto do修了。

芸術劇場

カフカの『変身』をやってた。森山未來の手足が異常に長かった。